はじめに

分子場解析

本ブログでは筆者が見出した分子場解析に基づくデータ駆動型触媒設計のための方法論に関するノウハウを公開していきます。現在のところ不斉触媒反応を対象としています。

不斉触媒反応における分子場解析とは、下図に示すように生成物の鏡像異性体比と、分子の3次元構造から計算される分子場(3次元画像情報に相当)との間の回帰分析です。作成した回帰モデルの回帰係数から分子のどこに置換基を導入すれば、エナンチオ選択性が上がるのか、あるいは下がるのか可視化できます。

可視化した重要構造情報をもとにエナンチオ選択性が向上する基質や触媒を設計できれば、これまでの研究者の知見に基づく試行錯誤型の有機合成研究がちょっとだけ変わるかもしれません。

筆者のもともとの専門は有機合成・構造有機化学ですが、2013年よりデータ駆動型触媒設計法構築に本格的に取り組みはじめました。2019年に分子場解析に基づく不斉触媒反応における、エナンチオ選択性向上のためのデータ駆動型分子設計法の構築に成功しました。

2019年までの不斉触媒反応における分子場解析まとめ
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cicsj/35/1/35_133/_pdf

可視化した重要構造情報に基づく分子設計によりエナンチオ選択性が向上したはじめての例
論文Molecular Field Analysis Using Intermediates in Enantio-Determining Steps Can Extract Information for Data-Driven Molecular Design in Asymmetric Catalysishttps://www.journal.csj.jp/doi/full/10.1246/bcsj.20190132
プレスリリース触媒反応におけるデータ駆動型分子設計に成功
触媒反応におけるデータ駆動型分子設計に成功 | 理化学研究所

共同研究により、見出した方法論が実際の触媒反応開発にとって有用であり、有機合成の難題である複雑な反応の制御が可能であることを見出しました。

分子場解析に基づく立体分岐型不斉合成におけるデータ駆動型触媒設計
論文Data-driven catalyst optimization for stereodivergent asymmetric synthesis by iridium/boron hybrid catalysis」
https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2021.100679
プレスリリース「有機合成の難題である複雑な反応の機械学習・データ駆動型触媒設計による制御」
有機合成の難題である複雑な反応の機械学習・データ駆動型触媒設計による制御 | 東京大学

共同研究によりさらに方法論を発展させ、遷移状態計算と組み合わせることで、形式上、計算機上でデータ駆動型触媒設計を行うための方法論を報告しています。

遷移状態計算と組み合わせた分子場解析に基づくデータ駆動型インシリコ不斉触媒設計
論文Molecular Field Analysis Using Computational-Screening Data in Asymmetric N-Heterocyclic Carbene-Copper Catalysis toward Data-driven in silico Catalyst Optimization
CSJ Journals
プレスリリース「計算機上で収集したデータの機械学習による不斉触媒設計」
計算機上で収集したデータの機械学習による不斉触媒設計
理研らの共同研究グループは、遷移状態計算と機械学習を併用して、「エナンチオ選択性」が向上する不斉触媒を計算機上で設計することに成功しました。

本ブログでは、その背景知識やソースコードを含め、分子場解析のノウハウを公開していきたいと思います。とくにプログラミングなど情報科学も勉強しながら有機合成研究をしたいという学生さんを主な対象としています。筆者もまだまだ勉強中ではありますが、本ブログが、そういった方々が新しい研究をはじめるための一助になれば幸いです。

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